インスリンの出にくさと、 働き具合

インスリンの出にくさと、
働き具合に注目して糖尿病について考えてみましょう。

インスリンの出にくさ(インスリンの分泌不全)

一般に、健常人のインスリン分泌は、大きく分けて2種類あります。
基礎分泌(ベーサル:Basal)追加分泌(ボーラス:Bolus)です。
下のイメージ図を見てください。

すい臓からは、朝昼晩と一日中、一定量でインスリンが分泌されています。これを基礎分泌(ベーサル:Basal)といいいます。図では下の青い線です。そしてもう一つが、食事を摂ったあとに大量に分泌されるインスリンで、これを追加分泌(ボーラス:Bolus)と呼びます。図では上の黄緑で示した曲線です。食事の後にインスリンが大量に追加分泌されていることがイメージ図からわかると思います。

このように、インスリンの分泌は、一日中出ている「基礎分泌」と、食事の後に出る「追加分泌」とに大きく2つに分けることができます。健常な人では、これらのインスリンの分泌が正常に作動するのですが、すい臓が弱ってしまった糖尿病の患者さんでは、まず追加分泌が低下してしまいます。下の図をみてください。

◆ 糖尿病の場合、まず追加分泌が低下する

追加分泌は、初期追加分泌後期追加分泌に分かれますが、糖尿病の場合、まず初期追加分泌が低下してきます。初期追加分泌が低下すると、食事の後に瞬時に血糖上昇への反応ができなくなり、食後の血糖は上昇しつづけることになります。そこで、身体は血糖の上昇を抑えようと、後期追加分泌を増大させます。ところが、糖尿病が悪化してくると、この後期追加分泌も、やがて低下してしまいます。

2型糖尿病の患者さんのインスリン分泌のグラフ曲線をみてください。
糖尿病の場合は、インスリンの初期追加分泌が足りず、後期追加分泌も低下した状態となっていることがわかると思います。
では、さらに糖尿病が進行していくと、一体どうなるのでしょうか?

◆ 早朝空腹時血糖が上昇すると、残念ながらかなり進んだ状態

このように糖尿病が進行すると追加分泌が低下するだけでなく、基礎分泌も低下しだします。初期追加分泌後期追加分泌基礎分泌の順でインスリンは分泌できなくなります。

初期追加分泌と後期追加分泌が低下すると、食後高血糖が生じて血糖値は高い状態が続きます。加えて、基礎分泌が低下してくると、食事と食事の間、例えば就寝中でも血糖の高い状態を解消できず、早朝空腹時血糖値が上昇します。早朝空腹時血糖値と言うのは、朝起きて、朝食を食べる前の血糖値のことです。

この早朝空腹時の血糖が上昇しているなら、すでに基礎分泌も低下していることになります。これは糖尿病の病態でいえば末期にあたります。もし健診で空腹時血糖が上昇しているなら、残念ながら末期状態と言うことになります。初期追加分泌の低下から、基礎分泌の低下までにかかる時間は、10年以上かかる場合もあれば、数か月で急に悪化する場合もあります。

◆ 糖負荷試験をして、早期に糖尿病を発見することが大切

ですから、末期状態になるまでに早く糖尿病を発見することが大切です。糖尿病は病院で糖負荷試験をすれば、100%確実に判明します。糖負荷試験とは、砂糖水(75gのブドウ糖)を飲んで、その後の血糖値とインスリン値を0分、30分、60分、120分に採血して調べる検査法です。糖尿病が疑わしい人、たとえば両親どちらかが糖尿病の人、かつて尿糖検査で陽性であった人、肥満の人、メタボリックシンドロームに適合する人は必ず受けていただきたい検査です。

糖負荷試験は確実ですが、もっと簡単に調べることもできます。それは、食後に血糖値を測定することです。できるだけお腹いっぱい食べてから食後血糖値を測定し、血糖値が、140mg/dl以上あれば糖尿病、または糖尿病予備軍が強く疑われます。

インスリンの働き具合(インスリン抵抗性)

糖尿病でのインスリンの出にくさ(分泌不全)の話をしましたが、次に、インスリンの働き具合についてみてみましょう。

すい臓がせっかくインスリンを分泌していても、インスリンが体内で上手く働かなければ血糖の高い状態は解消されません。こうしたインスリンの働き具合のことを、「インスリン抵抗性」と呼びます。インスリン抵抗性が大きいというのは、体内でインスリンの働きが悪いことを指しています。

インスリンは、血液の中のブドウ糖を筋肉や細胞へ送り込むとき、細胞の「インスリン受容体」と呼ばれるものと結合します。ところが、このインスリン受容体が機能しなくなったり、情報伝達経路に異常があると、うまくブドウ糖を細胞内に取り込むことができなくなります。肥満などで細胞に多くの中性脂肪がたまると、インスリン受容体の数が減るのでインスリンの働きが悪くなってしまうわけです。

◆ 肥満細胞から出る様々な生理活性物質(サイトカイン)が
インスリンの働きを妨害!

また、肥満になると肥満細胞が増え、この細胞から様々なホルモンが分泌されます。これまで脂肪細胞は、余ったエネルギーの貯蔵庫と思われていましたが、最近では脂肪細胞が肥大した肥満細胞からさまざまな生理活性物質、血圧や血糖値を上げたり、中性脂肪をふやしたり、血栓をできやすくする という、悪玉物質が分泌されていることがわかりました。これらをまとめてサイトカインと呼びます。

たとえば、TNF-αやレジスチン。これらはインスリン受容体を障害するなどして、インスリンの働きを妨害します。PAI-1(パイ・ワン)は血栓の形成を促進して、動脈硬化を進行させます。またアソジオテンシノーゲンは血圧を上げる働きをします。悪玉ばかりではなく、アディポネクチンのように動脈硬化を予防する善玉のサイトカインもあるのですが、肥満細胞が増えるとその分泌量は減少してしまうのです。

さらに、肥満細胞から出るサイトカインは、肥満や高血圧、脂質異常症(高脂血症)、動脈硬化を進展させることもわかっています。動脈硬化が進むと、確実に脳梗塞や心筋梗塞、さらには下肢の壊疽(足の傷に細菌感 染して化膿し、細胞が死んで腐る)が発症しやすくなります。一般的に、インスリンの働き具合が悪い(インスリン抵抗性が大きい)人は、肥満症、高血圧症、 心疾患、高インスリン血症の人です。そして、インスリンの働き具合が悪いほど、心臓の疾患(狭心症や心筋梗塞)が発生しやすくなるといわれているのです。

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